「量」「美味しさ」「安さ」
スーパーで手に入る食材の中で、この3つの項目を、最も高い水準で満たしている食材が「手羽元」と「大根」だ。
神のいたずらなのか、この2つの食材の相性は抜群と言っていい。手羽元の骨から出た旨味が煮汁に溶け出し、それを大根がこれでもかと吸い上げるという、地球もお手上げの超高効率循環システムを鍋の中で引き起こせ!
大根は一本150円。手羽元はグラム100円前後。半額セールにでも遭遇しようものなら材料費500円を切る。量に関しては、成人男性なら3食分、たまに街で見かける心配になる程ガリガリの女性なら7食分くらいの量ができる。
準備しておく調味料
・醤油とみりん
めんつゆでもいいのだがこの2つを揃えておくとかなり自炊の幅が広がる。
割合を調節することで牛丼でもすき焼きでもぶり大根でもなんでもできるし、めんつゆよりも本格的な味に仕上がる。何より料理の楽しみを感じることができるのが、めんつゆではなく醤油とみりんを買っておきたい一番の理由。
・砂糖
使うか使わないかで料理の美味さに天と地の差が出る。自炊するなら塩より先に買っておきたい最重要調味料。料理経験のない人は意外と知らない。砂糖は甘みを足すためだけに使うんじゃなく、「コク」を出すために使うものだと言うことを。
調理編
調理手順は実際作っていく工程を追いながら解説していく。
大根を切って下ゆで
3センチくらいの輪切りにして皮をむく。言葉にしづらいが、大根切ってる時が人生で唯一「順調だ」と思える時間。それ以外は順調とは程遠い人生。
皮を剥く際知っていて欲しいのが「大根の皮は意外と分厚い」と言う事実。皮を集めに剥かないと煮汁が染みづらくなるし食感も良くない。
画像をよく見てもらうとわかるが、中央から外側に走る放射状の繊維が途切れた部分、これが全部皮だ。「なんで大根の皮はピーラーで剥かないんだろう?」と言う疑問から解放された気分はどうですか?
筆者は凝り性なので十文字に切れ込みを入れたがやらなくてもいい。後日切れ込みなしで作ったが何も変わらなかった。また、筆者はマニュアル人間なので米のとぎ汁で煮ているが(大根の臭みがとれるらしい)、普通に水で煮ていい。後日普通の水で煮たが何も変わらなかった。
料理番組や本でよく見かけるこの手の小細工は大抵オカルト。麻雀の「最初に字牌を切ったらダメ」と似たような自己満足の世界。でも「下ゆで」はしたほうがいい。それはなぜか。
大根はアクがすごい。何より大根のような火の通りにくい食材と肉を一緒にする料理は、必ず火の通りにくい方を下ゆでしておく。同時に煮ると火が通るより先に煮汁が蒸発して無くなるわ肉はボロボロになるわで目も当てられないことになる。下ゆでだけは何を犠牲にしてでも確実に行う。
箸が通るくらいの柔らかさになったら鍋から上げておこう。
手羽元をさっと炒めてから大根と合流
我々貧困層が唯一ドキドキせずに買うことができる肉、手羽元を大事に大事にフライパンに並べる。1羽のニワトリから2本しか取れない。画像では10本なので、5羽分の足をいただく事になる。まあまあのサイズの動物の命5つ分だぞ?人間って恐ろしいな。
「このまま食べろと言われたらちょっと抵抗あるな、でも両親を人質に取られていたら食えなくもないな」くらいの焼き加減がベスト。端的に言えばキツネ色という事だ。
キツネ色になった手羽元の横に先ほど下ゆでした大根を放り込み、合わせ調味料を具材の3分の2が浸るくらいまで浴びせかける。この時、間違っても具材が全部被るくらい煮汁を浴びせてはいけない。煮汁が多いと、具材から出た旨味が分散して病院食みたいな味になる。
合わせ調味料の割合は
水6:醤油1:みりん1
これが筆者のおすすめ。平均的なレシピより若干味が濃いめとなっているので、隣の部屋の住人が「モリモリ」という音を確認できるくらいモリモリ米を書き込める。
コクを出すために砂糖を大さじ一杯投入。できれば三温糖とかいう茶色い砂糖が好ましい。コクを出すためだけにマッドサイエンティストが生み出したらしい。
そして落し蓋。普通に蓋をするのではなく落し蓋。自炊を始めるまで落し蓋も先述の十文字切れ込みのようにオカルトだと断定していたのだが愚かだった。旨味を凝縮させるために少ない煮汁でしっかり煮込むために先人が編み出した素晴らしい技術だった。
NGシーン。料理に失敗した理由の中で最も情けないのが「落し蓋が小さすぎた」だ。
これだけは絶対に避けたい。
10分ほど中火で煮込んだら完成
この照りをみて欲しい。落し蓋を取った瞬間、風呂上がりの松崎しげるかと錯覚するくらいの照り。この照りを出せたら人間としてもう十分。宅建も簿記2級も危険物取扱者乙種もいらない。
実食
手羽元の正しい掴み方はこう。このままかぶり付いて、外でやったら公然猥褻が適用されるくらい執拗にむしゃぶりつけば、手羽元一本で茶碗一杯食べられる。
手羽元の旨味を暴君並みに搾取した大根はご飯のおかずとして成立する。大根ってご馳走だったんだ…
二日目の大根。もう飴だった。
買い物袋から大根が飛び出した状態で歩いていて、ふと「大人になったんだな」と感じた。幼い頃、パート終わりの母がちょうどこんな状態の買い物袋を下げて帰ってくる姿を思い出す。
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