京浜東北線「東十条駅」北口を降りると目の前に広がるのが東十条商店街。このあたりは知る人ぞ知るラーメン激戦区であり、「麺処ほん田」「燦燦斗」などの名店を筆頭に数多のラーメン店がひしめいている。その陰に、店構えこそ立派だが隠れがちなのが家系「らーめん春樹」だ。
らーめん春樹は都内に複数店舗を構えるチェーン店であることもあり、ここ東十条でわざわざこの店に入る人は、地元民か食に無頓着な人間のみであるため、普段は閑散としている。私が初めてこの店に飛び込んだ理由も、近所に住んでいることと、ウインドウに力強く記された「ライス食べ放題」の文字につられた、質より量派の急先鋒を自負しているからに他ならない。
たしかにここのラーメンの味は可もなく不可もなく、日本中の家系ラーメンの味を全て足し総数で割ったような、良く言えば家系が苦手な人でも食べられる極めて普通のラーメンだ。
つけ麺は900gまで増量無料という、食いしん坊大歓喜のサービスもあるものの、ここだけみると極めて普通のラーメン店という印象はぬぐえない。
が、そんな「らーめん春樹」に、近所に越してきてから数年、私が近所の名店や激安チェーン店には目もくれずこの店に通い続けているのには理由がある。それがこれだ。
大きならーめんメニューの下に、ラミネート加工こそされているものの、昭和に印刷されたのかと思うほどに色褪せた定食メニューがある。値段だけ見ると普通なのだが、表記こそされていないものの、なんと定食までもがご飯とおしんこがお替りし放題。
この店は、らーめんを頼もうが定食を頼もうが、ご飯とおしんこがお替りし放題なのだ。
普段、「王将」や、この店のすぐ近くにある「日高屋」などのエセ激安中華に通っている連中には、大判の餃子10個で構成された餃子定食が、ワンコインでご飯おしんこお替りし放題という凄まじさに驚きを禁じ得ないだろう。出血サービスどころではない、髄液もちょっと出したのだ。
私がお勧めしたいのは、唐揚げ定食だ。
どデカい唐揚げ4~5個(サイズによって変動)にスープにおしんこ、それに米。これさえあれば他にはもう何も望まないといった構成。キャベツはない。そんなものはマズローの欲求5段階「自己実現の欲求」のさらに上に位置する強欲の象徴、足るを知らない特権階級の戯言なのだ。
何も言わずとも、マヨネーズが一本ドカンとついてくる。小皿に味見程度のマヨネーズをつけて恩着せがましい態度を示してくるその辺の定食屋は、この時点で私の中で死んでいる。ネギ塩だれやゆず胡椒が欲しい?そんなものは無い。それらは調味料ではなく、暴走した自由競争主義の残骸だ。SNSに脳を焼かれた犬の餌だ。
そんなことはどうでもいいと思える驚くべき事実がある。唐揚げマニアなら写真を見ただけで既にお分かりであろうが、この店の唐揚げ定食は590円というコスパを誇りながら…
冷凍の唐揚げではないということだ。このサイズや衣の粉の吹き方がそれを物語っている。言うまでもなくジューシーで美味い。醤油のとがりのない優しめの味付だがダシが効いており、唐揚げ専門店の唐揚げに引けを取らない。冷凍丸出しのプラスチックみたいな衣のちっさいちっさい唐揚げでお替り不可、それで700円近く取っているその辺の中華チェーンは、この唐揚げ定食を前にただひれ伏すしか道はない。
ちなみに唐揚げ5個単品が500円。唐揚げ定食が590円なので、90円でライスを(並)でも(大)でもなく(無限)で提供していることになる。銀シャリのために命を張る時代はとうの昔に過ぎ去ったのだ。
カロリーなどどこ吹く風。オレオに牛乳を浸すが如く、唐揚げをマヨネーズに浸して食べれば否が応にも進むのが米。気が付けば空の茶碗の中で箸が空転しているだろうが…
そんな時、満を持して向かうのが、店の片隅で荘厳な雰囲気を放つこのセーブポイント。「食べ終わる」というのは私のようなデブにとってGAME OVERなのだが、デブはここから復帰する。
脂っこい口を癒したくなった時ありがたいのがソフトドリンク100円。たまに街で見かける、この辺一帯が空爆にあったのかと疑うほどボロボロの自販機並の安さ。サワーに至っては西成レベルの180円だ。
この店には、水がぬるい、ご飯がやわらかい、トイレが店の中央付近にあるため全ての席がトイレに近いといった多少の欠点はあるものの、それらを補って余りある値段の安さ、ボリューム、揚げ物や焼き物の美味さは抜群だ。
ちなみに、らーめん春樹は都内に複数あるが、グランドメニュー以外のメニューは店によって違うため、このような激安定食を提供しているのは、私が確認する限り東十条店だけだ。
東十条で安く腹いっぱい食べたいときはここ一択だろう。
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