一人暮らしを始めたばかりのころ、調理技術に関して「しょうゆをかける」という技しか習得していなかった私は、日々、口に運ぶ食料の代り映えのない味に辟易としていた。
そんなとき、当時バイトしていた飲食店に卸業者の営業マンが「これすごい良いですよ」という一ひねりもない殺し文句とともに持ってきたこのキッチンガーリックと出会った際の衝撃は凄まじかった。試しにまかないのコロッケ定食に一振りして食べた瞬間、これ一本あれば今後の人生で口にするすべての料理が好みの味になることが神に約束されたような感覚に包まれ、そのままパーカーを着て帰ったので図らずも感覚とパーカーの重ね着となった経験は今でも鮮明に覚えている。
それ以来というもののあらゆる食べ物に振りかけ続け、これを振りかける動きのためだけに発達した筋肉をも確認するほどの有様であった。
フライドポテトやハンバーガーにかけてジャンク感に拍車をかけるのはアホでも思いつく基本中の基本。
「妥協」という概念をそのまま味にしたようなインスタント麺にもこれをかければ一気にパンチのきいたパワーフードに大変身。キッチンガーリックは、家系ラーメンが食べたいという欲求を抑えるための漢方だ。
美味しいが実はみんな3口目で飽きている釜玉うどんにも、香川県民の制止を振り切って容赦なくこれを振りかければ優しい味は一変、強烈なジャンク臭とともに心に浮かぶ瀬戸大橋がゴールデンブリッジに書き換わる。
バターを塗ったトーストにキッチンガーリックとパセリをかければ、ホテルでしか口にするチャンスがないといわれるあのガーリックトーストが一瞬で卓上に顕現。新しい魔法を覚えたような気分だ。
ゆでたパスタをそのままテーブルに盛っていき、卓上でオリーブオイルと塩と一味とパセリ、そしてキッチンガーリックを乱暴にふりかければあっという間にペペロンチーノだ。調味料の容器を全ての指に挟んでかける調味料ウルヴァリンと化してこその人生だ。
もちろん料理の工程でも使える。唐揚げを作るときなどに使用すればにんにくをおろす手間が省けるし、チューブにんにくよりも日持ちがいい。地球上に存在するすべてのにんにくは粉末になっていいのかもしれない。
揚げたものにさらに一振り。にんにくの重ね着は体温を急激に上昇させ冬の寒さを吹き飛ばすどころではなく冬そのものを忘れさせてくる。人間の平均体温が36度の時代は終わりだ。キッチンガーリックは人類の体温を37度まで持っていく。いや違う…?キッチンガーリックが温めるのは体ではない、「魂」だ…。魂そのものを温めてくれる。
マヨネーズに振りかけるととんでもないことになる。神の調味料キッチンガーリックに悪魔の調味料マヨネーズを組み合わせたのだから当然の結果だが美味すぎる。七味マヨなどというのはキッチンガーリックを知らずに一生を終える運命を背負った者たちの卑屈な文化にすぎない。オレオを牛乳につけてる奴も同じだ。
するめやかまぼこにつけてもいいが私は違う。
先ほどのにんにく唐揚げを特攻させる。こうなってくるともう鶏肉の面影すら消え、にんにくそのものを揚げたにんにくの唐揚げに限りなく近い味わいになっていて、人間が想定できるのをはるかに超えたガーリック感で口がパニックになるがそれがいい。人は口がパニックになっている状態で白飯をかきこんだ時はじめて気づく、白飯の最高のおかずは明太子でも塩辛でもなく、「パニック」だったと…
堅あげポテトにガーリック味があったらいいなと思ったことはないだろうか。真剣に生きている人なら絶対にある。
大量に入れて振りかけて思い切り振る。
めちゃくちゃおススメ。堅あげの噛み応えとにんにくの風味の相性は伝説的と言っていい。
同じ要領で堅あげポテトに限らず様々なお菓子ににんにく風味を足すことができる。すべてのスナックを好きなタイミングでにんにく味に変化させるチートだ。チートスにかけても美味い。
上級者というか行きつくところまで行きつくとキッチンガーリックのみをあてにビールを飲む。海賊でもここまでするか?と思うほど乱暴だが塩をあてに飲むよりは確実に血の通った行為だ。普通に飲めるしカロリーは0なので、心には厳しいが体には優しい新時代のおつまみだ。
マスタークラスはソルティドッグという言い伝えもある。
このように、かけてはいけないものは寿司とケーキくらいしか思い当たらないほど万能な調味料「キッチンガーリック」。300円とスパイスにしては若干高いが量が多く日持ちもいい。スーパーのスパイスコーナーに大抵は置いてあるので見かけたら是非試してみてほしい。
amazonでは一生使いきれないほどの量からでしか売っていなかった。
コメント
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オレオは牛乳じゃなくて何につけるのがオススメなのか知りたいです